「新卒一括採用を廃止」するとさらに就活が厳しくなる理由。日本とアメリカで新卒就活した経験から考えたこと

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日本の給料水準が低いことが話題になるたびに、海外就職・海外転職も注目される。

中には新卒で海外で働きたい!だけでどうやって海外で新卒の就職活動をするのかわからない。日本の一括採用って海外でもある?

そんな疑問を持っている人に、日本とアメリカで新卒として就職活動をした経験から、日米の新卒就活事情を比べてみたい。アメリカで新卒で仕事を得るヒントになれば幸いです。

ちなみにものすごく長いので興味のある人だけどうぞ

新卒の海外就職、海外で働きたい新卒生に伝えたいこと。アメリカの就職活動の様子

日本とドイツの就活、とくに新卒生の就職活動のようすを比べた記事「日本の新卒一括採用システムが海外に比べて圧倒的に恵まれている理由」を読んだ。伊藤 智央さんの元コンサルタントな歴史家というブログのエントリーだ。

アメリカの就職活動の様子について簡単に次のように書いてある。

私の聞いた限りだと、ヨーロッパ大陸系はこのように、即戦力重視ですが、イギリスやアメリカは日本のモデルに近く、例えば、文学部でシェークスピアを勉強していても、投資銀行に入りやすかったりすると聞いています。ドイツの場合、シェークスピアの勉強をしている人が、投資銀行のインターンシップに応募すると、「はっ?場違いだよ」という印象を受けます。

そのため、英米系モデルは日本モデルと大陸系モデルの中間にあると考えています。

さらに最後の注釈では

英米モデルについて、間違っていたら教えてください

とのこと。私が経験したアメリカでの就職活動は、どちらかというとヨーロッパ大陸系に近いと思う

日米の就職活動のちがいについては、以前からいつか書きたいと思っていたテーマなので、この誘いに乗って伊藤さんのフォーマットをお借りしつつ書いてみる。

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新卒一括採用にプラチナチケットの価値はあるのか?

伊藤さんは、一斉採用のシステムの是非ではなく、日本とドイツの就職活動を比べて、日本の学生に新卒採用はプラチナチケットなので安易に捨てることは考えたほうが良いとアドバイスしている。

新卒の一括採用は、1)入社が簡単であり(高い就職率)、2)さらに入社後に無料のトレーニングや有益な経験や知識が手に入るというボーナス特典がついているため、プラチナチケットであるという理由だ。

チケットというと、どこかに入るためのチケット(コンサートやディズニーを思い浮かべてほしい)と、何かの商品やサービスが手に入るためのチケット(特別なサービスやスペシャル景品など)がある。

私は今の日本の新卒一括採用には、「正社員になるため(入社するため)のチケット」という価値だけで、入社後のボーナス特典はもはやないのではと思う。入社後のトレーニング等だけでは、プラチナというには物足らない。

一世代前の日本であれば、新卒チケットを使い正社員になれば、さらに入社後のボーナス特典(年功序列で給料はあがり、終身雇用で保証された生活)がついていた。この入社チケット&入社後の生活の保証特典がついてこそ、新卒採用がプラチナチケットの価値をもつ。

が、今の日本の社会はどうだろう?

プラチナチケットでお給料もよくて働く環境もそこそこよい会社に入社できるのは一握りのの人だけ。新卒で入社した会社がブラックだったり、給料は抑えられ長時間労働が一般的ないわゆる社畜生活になる可能性だって低くない。その上、終身雇用はなくなり生活の保証はどこにもない。

もし新卒一括採用のプラチナチケットに、「入社が簡単であり、入社後の様々なボーナス特典もついてくる昔のようなプラチナ感」を期待しているならば、現在の日本の状況をみて「新卒プラチナチケットなんて価値がない!一括採用なんてオワコンだやめてしまえ」と言いたくもなるだろう。

だが新卒チケットにプラチナの価値はなくだたの「正社員に(簡単に)なるためのチケット」だとしても、私はまだ日本の新卒チケットに価値があると思う。

その理由をアメリアの就職活動を例にとって説明したい。

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日本とアメリカで新卒生として就職活動を経験

その前に「あなた誰?」と思う読者が多いはずなので、簡単にわたしの就職活動歴を振り返る。

日本では、4年生卒業時と大学院中退した時に新卒枠で就職活動した。4年生のときは中小企業に就職先が決まっていたものの、大学院に進学。大学院で修士はとったものの、博士課程は単位取得退学。そのときも新卒枠で就職活動をし、ちゃっかりと商社の営業&メーケティング部に就職した。

27歳で厚かましくも22-25歳前後の学生に混じって新卒枠で就活。27歳女子の理系博士退学から文系就職でよく商社に就職できたものだと思う。(旧職場のみなさま、その節はお世話になりました。)

アメリカでは、コミュニティカレッジ(2年制の専門短期大学のようなもの)を卒業したあとに、これまた新卒生とおなじように就職活動をした。2年間の派遣社員をえて現在はアメリカ企業の正社員の研究員として働いている。

というわけで、かなりイレギュラーだとはいえ、日米で新卒として就職活動を経験したので、日米の就職活動の違いについて書きたい。

*ここでは理系とくにバイオ系の就職について書いていく。文系の場合はまた違うと思う。さらに私が日本で就職活動をしたのは10年+α以上も前なので現状とは若干のズレがあるかもしれない。

伊藤さんがあげている日本で新卒で就職する場合のメリットは3つ

  • ポテンシャル重視のため就業経験が要求されない
  • 就職率の高さ
  • 充実した入社時トレーニングの存在

これに加えて、同期同士の社内の横のつながりができるとか、4月一斉入社なので予定が立てやすいというメリットもあるが、「就活する時のライバルが新卒生だけ」というメリットはぜひ加えたい。

海外就職。新卒で仕事を得るために海外で大切なこと

日本の新卒採用は実務よりもポテンシャル重視

実務経験がなくても、大学で勉強した専門とは異なる職業だとしても、日本では正社員として就職ができる。日本では、新卒の学生に実務経験を期待していないので、むしろサークルや部活、旅行や留学などの大学生なりの人生経験の方が重要だ。

日本では、就職の際に実務経験が要求されないので、大学を卒業後すぐに正社員になるハードルが極めて低い。このことは、海外の就職活動と比べるまでもなく、新卒チケットを逃したらその後の転職活動や既卒者の就職活動が大変なことを考えればすぐに分かるだろう。

だからこそ新卒一括採用は「大学卒業後すぐに正社員になるための1回きりのチケット」として価値がある。

ただポテンシャル採用は学生にとって良いことばかりではない。

特に大きな会社に就職する場合、職種が選べないことが多々ある。例えば商社といえば、花形部門は営業。男子生徒の多くは営業部に入りたくて商社を希望する。が、実際の配属は、人事、総務、物流ということもある。社会経験があればこれらの部門の大切さや専門性の高さや面白さはわかるが、新卒生にはわかりにくい。

同期がつぎつぎと大きな商談に関わったり、1年目2年目で早くも海外出張をいくのを目の当たりにすると、やはり焦るものである。

本人の希望と配属先のミスマッチは新社会人の離職率の高さにもつながっており、私が就職した当時もこのミスマッチをいかに少なくするか話題になっていた。

会社として一括採用をし入社後に配属先を決めている限りは、このミスマッチの問題はなくならないだろうと思う。

アメリカは新卒でも実務経験を重視した採用

アメリカでも、新卒といえども就職して仕事を得るには、ドイツ同様に即戦力、実務経験がやはり重要視される。

日本の一斉採用とちがい、アメリカでは部門や部署ごとに必要に応じて社員を募集する。

募集する時点で求められるスキルや経験がはっきりしているので、その仕事をするのに最適な人材を採用する。そもそも即戦力にならない人は採用されない

アメリカの大学生が必死でインターンシップをして実務経験を得ようとするのはそのためだ。人によっては1セメスターや1年間ぐらいをインターンシップとして働いている。

アメリカのインターンシップも、ドイツ同様に社員と同じ扱いで仕事をまかされ報告書も書く。わたしの勤務先の会社では、社員がインターンにOJTトレーニングをし、仕事ができるようにしている。まさに日本の新卒の社員が受けるOJTトレーニングだ。

しかしインターンシップといっても募集も限られており全員ができるものではない。

とくに学部の学生ができるインターンシップは限られている。その場合は、夏休みに派遣社員やボランティアをしてでも実務経験を積んでいる。

もちろん、大学卒業までに十分な実務経験がありすぐに正社員として働ける人ばかりでもない。

例えば、この2年半でわたしのチームで働いた派遣社員をみると、大学院卒の女性2人(わたしも含む)、4大既卒の男子4人、4大既卒の女性4人、現役大学生2人(夏休み中)だった。

現役大学生をのぞくと、大学卒業後に数ヶ月から数年派遣社員をしつつ実務経験を積んでいる人達だ。

ちなみに派遣社員全員が生物系の学生であった。かならずしも生物系の専門知識は必要としていないエントリーレベルのポジションですら、まったく違う分野の学生は採用していない。

アメリカでは就職時に実務経験が要求されるため、学生の期間にインターンシップで実務経験を積んでおくか、卒業後に数ヶ月から数年間を派遣社員やエントリーレベルの仕事をしながら転職活動を続けることになる。

これが日米の新卒生の就職率の内訳の違いにつながっている。

アメリカの新卒生の就職状況と比べながら新卒一括採用について思うこと。一括採用にもはやプラチナチケットの価値がない理由、もし新卒一括採用をやめたらどうなるかなど。

 

新卒正社員の多い日本、正社員までの道程が長いアメリカの就職事情

日本では新卒で90%近い人が正社員として就職している

日本では、新卒の失業率は低く、しかも正社員になれた割合が高い。

新卒の失業率 約6%、就職者のうちの正社員の割合は87%。

注)日本のデータは、文部科学省が昭和23年から毎年行っている標記調査の平成28年度学校基本調査(確定値)PDFを使った。大学学部卒業者の失業率を知りたいが直接データがなかった。ここでは、2015年に大学を卒業したが2016年5月現在で就職準備中の者の人数を使い、下記の式を新卒の失業率の参考にした(PDF資料9ページ)。

新卒の失業率=就職準備中の者/(正規の職員+正規でない職員+パート・アルバイト+就職準備中)

これで大学学部新卒の卒業率を計算すると5.9%。

さらに就職した人のうち、正規の職員いわゆる正社員は87.4%、フルタイムの契約または派遣社員は4.4%、パート・アルバイトは2.3%となる。

日本の新卒の失業率は5.9%。就職した新卒のうち87%はいわゆる卒業後すぐに正社員になれている。これがどれだけすごい数値かアメリカの新卒の就職状況と比べてみたい。

アメリカでは新卒で正社員になれるのは約50%

一方アメリカの新卒生の失業率(2013年)をみると約6%と日本とほぼ変わらない(1990年から2013年の平均は4.3%)。この数字は22歳から27歳の人で学士以上の学位を持っている人の人数なので大学院生も含まれる。

    参考資料:Federal Reserve Bank of New York (PDF)

失業率(Unemployment Rates)は日本とアメリカで大きな差はないが、その内訳は大きく違う。

アメリカで新卒生の就職ではUnderemployment Ratesが問題になる。これは4年生の大学を卒業しても、4年生の学位を必要としない職種(低賃金労働が多い)についている人の割合のこと。

新卒生のUnderemployment Ratesは2012年で44%にもなっている。この割合は22歳が高く(2009年-2011年では55%以上)30歳を超えるぐらいでだいたい30%強におちつく。

また、別の小規模の統計では2014年の大学卒業生のうち、2014年の9月(アメリカでは8月末が始業式)で正社員になれたのは49%、契約または派遣社員10%、パート社員15%となっている。

参考資料:CareerBuilder

アメリカの新卒生の多くは卒業後にすぐになんらかの仕事にはついているが、およそ半数弱は正規社員ではなく派遣や契約社員であり、卒業後も正社員になるための職務経験を積んでいる状態だ。

先に紹介した私の勤務先で働いていた既卒の派遣社員は例外ではない。彼ら彼女らも派遣社員をしながら、大学院進学準備か転職活動をしていた。

アメリカの状況と比べると日本の新卒正社員率が高いことがわかるだろう。

海外の新卒就職は初めから転職市場で戦うこと

日本では新卒用の就職市場が分けられている

日本の一斉就活では、ライバルも大学の新卒生にかぎられる。1年前に卒業した人ですら既卒枠になり別扱いになることが多い。これは大学生にとって新卒一斉採用のメリットだ。

たしかに一斉に競争させられるのでプレッシャーも大きいとは言え、相手は同じ学生でありある程度の採用枠が新卒生だけのために確保されている。

アメリカは新卒から転職市場で戦う

アメリカでは採用時期は各社様々であり、各ポジションごとに必要&予算に応じて募集をかける。もちろんアメリカでも企業が大学に新卒生の採用にくることもあるが、その枠は非常に限られている。

多くの学生は新卒から転職市場で戦うことになる。つまり、就職の際のライバルは新卒生だけではないのだ。

1人の正社員のポジションに、既卒生はもちろん、キャリアチェンジをしてエントリーレベルの仕事を探しているベテラン社会人、子育てが落ち着いた主婦の再就職、単純に転職したい人など、いろいろな人が応募する。

これらの先輩社会人と競ってポジションを勝ち取らない限り正社員になるのは難しい。はっきり言って、実務経験の少ない新卒の大学生は強いコネでもないかぎり厳しい。

アメリカの学生たちがインターンシップや派遣社員として経験を積むことは、実務経験をつけるためでもあるが、じつは企業とコネクションを作るためでもある。

派遣社員→正社員採用というルートは、アメリカの会社では一般的だ。私もそのルートを使った。

日本でも新卒採用をのがした後の就職・転職は大変だ。転職が厳しいのはアメリカでも同じこと。

アメリカの就職市場は、人の流動性は高いが、それはアメリカの転職活動が簡単だということではない。

1人の募集に数百人が応募することや転職活動に1,2年かかることは珍しくない。

新卒から転職市場で戦うアメリカや欧州の新卒生の苦労と比べたら、日本の新卒生の一斉採用がいかに特別待遇かわかるだろう。

アメリカでは複数の学部で学位を取ることができる

最後にアメリカの大学と日本の大学の制度の違いに触れておく。

日本の大学は、入学後に専門学部を変えることは非常に難しい。一方アメリカの大学では専門を変えること、学部を変えることが簡単にできる。

専門分野も一つである必要はない。実際にメインの専門(メジャー)と二つ目の専門(マイナー)をとったり、2つの異なる分野で学位を取る学生(ダブルメジャー)もいる。

そのため、就職先が限られている学部の学生は就職に有利な単位や学位も同時に取ることができる。

たとえば派遣で働いていた4年生の学生は、メジャーは気象学だったが就職が難しい現実を前に、途中から生物系の専門を加えてダブルメジャーで卒業し、派遣社員をえて正社員として就職した。

アメリカの新卒生の厳しい就職状況を考えると、このように在学中に専門を変えられる、複数の専門を選ぶことができることは、学生にとってかなり救いになっている。

海外で働く!アメリカの新卒就職活動のまとめ

新卒チケットを使って正社員になっても、年功序列で給料が自動的にあがることはなく、終身雇用の保証はないため、プラチナの価値はなくなった。

それでも少なくとも多くの人が正社員として就職できる可能性が高いチケットとしての価値はまだあると思う。

もし日本の一斉採用をやめて海外に出たいというのであれば、日本を出てみたらいいと私は思う。むしろ海外で就職できるぐらいの実力があるならば挑戦してほしい。

日本の新卒採用で入社後に得られるトレーニングや経験や知識は、海外で就職しても得られるものだ。

デメリットは日本の会社員としての常識が身につかないかもしれないこと、帰国後の就職の見通しがたたないことぐらい。

ただし、新卒でアメリカやヨーロッパで就職しようと思ったら日本の新卒の就職活動とは比べ物にならないほど厳しい条件で戦うことになることだけは覚悟してほしい。専門知識+実務経験のほかにもちろん語学力も問われる。

「正社員」になりたいのであれば、新卒チケットがおいしいことにかわりない。チケットを使うも使わないもあなた次第。

では、今日はここまで。
Have a good day!

おまけ:もしも日本で一斉採用がなくなってしまったら、、、

ここからはおまけです。興味の有る方はどうぞ。

プレジデント社の正視に耐えない残酷な現実「男性の年収と未婚率」が面白かった。男性の所得が低いほど未婚率が高い現実。

もし新卒の一括採用をやめアメリカのように新卒も転職市場で戦うようになると、新卒で正社員になれる人の割合は減り雇用の安定していない派遣や契約社員になる新卒者が増えるだろう。

給料が低いだけでなく雇用も安定していない若者が増えれば、ますます晩婚化&少子化が加速するのではないかと危惧する。

さらにポジションごとの募集になった場合、そのボジションにつきたい人が応募する。

それは、新卒生がベテランとも競争しなければならないことでもあるが、同時に再就職をしたい女性達も若い新卒生と就職先を競うことにもなる。

日本の風潮を考えると”若い女性”であるだけで優遇されることは多い。

就職するうえでの様々な差別(人種、性別、年齢など)を禁止しているアメリカならともかく、履歴書に顔写真を貼り生年月日と年齢を書かせる日本では、見た目や年齢での就職差別はなくならないだろう。(アメリカの履歴書には顔写真はなく、生年月日と年齢も書かない。)

新卒生の一斉採用を辞めた場合の社会は、就職市場で立場の弱い新卒生はもちろん、新卒生とポジションを競う再就職者にとってもさらに厳しい就職市場になると思う。

アメリカの新卒者の就職の厳しさと比べると、日本の新卒一括採用の有り難みがよく分かる。若者の雇用安定という点からも新卒一括採用は続けたほうが良いと思うのだが、日本の学生はどう思うのだろうか?

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アメリカで就職していますが、ネイティブなみに喋れるわけではありません。私の体験から、最低限サバイバルできるぐらいの英語力について書きました。

アメリカ就職を考える時にはお給料の相場と生活費の相場を知っておくことも重要です。

おしまい。では。

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